業務請負と人月と常駐作業の混沌 ― 2007年08月21日 10時58分15秒
ソフトウェアの開発ではよく「人月」という見積り単位が使用されます。
一人が1ヶ月働く必要がある「開発量」の見積りです。 ですが、これを誤解して、一人が1ヶ月働いた「労務費」として解釈している場合があります。
会社と会社の契約では請負契約とか派遣契約とかさまざまですが、そのことを現場のプロジェクトマネージャが理解していないことが多い。
つまり、請負契約の場合は開発量の単位として便宜的に人月という単位を使っているだけであり、成果物は労働力ではなく、契約した開発物です。 一方、派遣契約の場合は時間単価いくらで契約し、労働時間に比例して金額が積算されます。
同じプロジェクトを推進している場合、かつ、複数の会社の社員がプロジェクトのメンバーである場合にはこのことに注意をする必要があります。
業務請負で仕事をしている人員が担当分の開発に遅延を発生させている場合にはいくらでも遅延解消のために残業でも休日出勤でも要求すればいいでしょう。 しかし、派遣契約のメンバーに対してはこのような対応は避けなければなりません。 なぜなら、残業や休日出勤はそのままコストに返って来るからです。プロジェクトマネージャは開発物の納期や品質を確保するのと同時にコストも管理できなくてはなりません。その担当の生産性が低ければ簡単な作業に変更するとか他の生産性の高いメンバーに割り振るとかの変更を、まず、考える必要があります。
一方、業務請負で予定期間よりも早く開発を終わらせた場合はどうでしょうか。それは生産性が高く、質の高い仕事をしたわけですから、契約金額は変わりません。残りの期間はその現場から離れて何をしようが自由です。業務請負のメンバーの担当開発物が早く完了し、暇を持て余していても他の担当者の仕事を割り振ってはいけません。これは明らかに契約違反です。もし仕事を割り振る場合は、最初の請負契約はそのままで、追加発注の契約を行なうべきです。
業務請負での人月見積りは現実的には個人を特定しない形で提示されるべきです。 つまり、Aという人間なら2ヶ月で完了させる。Bという人間は同じ開発を行なうのに恐らく6ヶ月かかる。この様に開発能力、生産性は個人の能力に依存します。では、見積りとか契約はどうすればいいのかというと、ひとつの方法としては、開発規模とそれまでの実績による平均値で行なうようなことをすべきでしょう。
新人君を投入して1年くらいかかりそうだから12人月という見積りは通りません。では6人月という契約にして人月当たりの単価も低い契約を行なうでしょうか。これは請ける側の会社が避けるでしょう。このような場合、業務請負ではなく、派遣契約にして、日銭を稼ぐことが選択されます。
話を新人君以外に戻しましょう。開発規模と実績から6人月という見積りで契約された開発物を3ヶ月で完了させて納品しました。発注会社は受注会社にいくら払う必要があるでしょうか。もちろん、請負契約ですから、6人月分の金額です。そして、検収が終わればその開発メンバーは発注会社の指示に従う必要はありません。別のプロジェクトの仕事を行なうも良し、休暇を取るのもいいでしょう。
・・・・というのが本来の人月見積り、請負契約のあり方です。 私が発注側の管理担当者の場合はこの点は十分に対応していて、仮に常駐作業であってもきちんと切り分けていました。 ある開発が終わって、時間的に余裕がある場合は他の開発物の発注を個別に行なう。これが当たり前のまともな対応です。 ところが私以外の他の発注会社でこのような当たり前のことが出来ている会社には私自身は出会ったことがありません。
情けないことです。 常駐作業は契約形態に関わらず、このような間違いを発生させる温床となっており、契約に関する正常な判断を麻痺させます。組込みソフトウェア開発は常駐の場合が多いことから、このことに全く疑問をもたないで、契約形態の違いを意識しないで契約書だけの文言の違い程度にしか感じていないプロジェクトマネージャ、購買部署のなんと多いことか。 逆にいえば検収条件が明示されない請負契約も問題なんですがね。
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://kumikomi.asablo.jp/blog/2007/08/21/1741404/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。